心の中で、溶けて、ひとつに。








みるく








  本日の最高気温は五度。厳しい冷え込みが続き、夜遅くになると雪が降る恐れもあるでしょう。


「……恐れ……」


 両手に買い物袋をぶら下げ、エステルは空を見上げた。家を出る頃は、まだどんよりとしていたけれど雨が降りそうではなかった。しかし、三十分ほどした今は、ちらちらと白いものが目の前を通過していく。しかしまだ午後三時。予報より早く天気が崩れたようだ。
 足早に家まで戻り、雨戸をしめる。洗濯物をしまってから買い物に出かけて良かった。


「わあ……ほんとに降ってきました」


 気が付けば、先程よりも雪の量が多くなっていた。ベランダに落ちる雪は、ぱさぱさと小さく軽い音を立てている。雪が降るということはかなり寒いということになるのに、どういう訳か雪が降るとわくわくしてしまって、いつもよりも寒さが遠ざかってしまう。だからエステルは暫く窓を開けて雪を眺めていたが、そのうち指の先が冷たくなってきたので窓を閉めた。たまに雪を見たいと思うかも知れないので、ここの窓だけは雨戸を閉めないことにする。


「……わあ――…………」


 何回目かの覗き見で、遂に通りにもうっすら積もっているのを見つけた。ベランダの手すりは真っ白。街灯の灯りが降る雪を照らしていた。


「……八回目」
「?」
「お前が窓開けて、寒くて体ぶるぶるさせて、雪見てわーって笑って、やっぱり寒くてぶるぶるして、扉閉める。それ、八回目」


 振り向いたら、ユーリはソファに座って暖かいコーヒーを飲んでいた。テレビのニュース番組は、明日の交通の乱れを予想し、注意するよう呼びかけている。


「ユーリは雪が降ってわくわくしないんです?」
「オレは明日の電車が心配です。あと、そこではしゃいでるエステルさんが、明日の買い物で派手にすっ転ばないかも、とてもとても心配です」
「大丈夫です。ちゃんと滑り止めのついた靴を履いていきますから」


 胸を張って反論してきたが、恐らく自分から雪の中にざくざく入っていくに違いない。


「……しゃーねえ。行くか」
「え?」
「帽子と手袋、忘れんなよ。ほら、外出る準備」
「え? え?」


 コーヒーを一気に飲み干し、ユーリがソファから立ち上がる。全く話が読めなくて目をぱちぱちさせているエステルに、彼はにいと笑ってみせた。


「雪遊びしに行くぞ。今ならまだ公園の明かりついてるだろうし、明日遊びたくなっても溶けてるかも知れないしな」
「……でもユーリ、そんなに雪が嬉しくなさそうです」
「確かに明日の朝に影響が出るのは嫌だな。でも、雪自体が嫌いって訳じゃねえぞ」


 流しにマグカップを置くと、すたすた自室へ行ってしまったユーリを目で追いかけ、はっと我に返ったエステルも慌ててコートを取りに部屋へ向かった。