ED後捏造です。













 艶めいていれば、仕方のないこと。








hickey mark








 今日もエステルは子供達に絵本の読み聞かせ。絵の多い薄めのものを一冊と、型抜き絵本を一冊。今日はギルドの仕事がないのでハルルまで来てみたユーリは、丁度二冊の本を抱えて宿を出たエステルと会った。


「ユーリ! 今日はお休みなんです?」
「おう。カロル先生は色々やることあるみたいだけど、ジュディは後で少しだけ顔出しに来るってよ」
「そうなんですか。……あ、これから読み聞かせするんですけれど、ユーリもどうです?」


 どうです?、って、首を傾げて言われても、何が、どうです?、なのか。


「オレが行ってどうすんだよ。読み聞かせなんて出来ないぜ」
「皆さんと一緒に聞いたりとか、どうですか? だって皆さん、ユーリが来ると喜びますし」
「そりゃ……魔王退治の一件が原因だろうよ」


 以前ハルルにふらりと足を運んだ時のことだ。ふとしたことがきっかけで、大魔王に扮したユーリは、小さな勇者達に退治される羽目になってしまった。あれ以来、子供達からは『魔王の兄ちゃん』と呼ばれることになり、運悪くわんぱく小僧達に見つかると、光の剣(と言う名の木の棒)を手に追い掛け回されるようにもなった。ユーリとしては、小さな勇者達の相手をするのはそこまで疲れることではないのだが、毎回こうでは落ち着いて滞在していられないのも事実。


「お前、あの時は『魔王とも仲良くなりたいからピンチだったら助ける』みたいなこと言ってたけど、助けてくれたことないよな? いつも微笑ましい感じで眺めて終わってるよな?」
「ご、ごめんなさい……だって、いつも皆さん面白そうなのに」
「オレはゆっくりするためにここに来てるのに、毎度肉体労働してんだぞ」


 困ったようにしゅんとしたエステルは、しかし俯いた瞬間ぱちりと瞬きして、顔を上げて今度は心底不思議そうな顔をした。


「ユーリ、それが最初から分かっているのに、ハルルに足を運ぶんです?」


 ……それ言っちゃいますか。ああ、言っちゃいますね、この子は。


「とにかく、今日はパス。使って良いなら、お前の部屋で一眠りさせてくれ」
「ええ、どうぞ。お茶も自由に飲んでください」


 部屋の鍵を渡され、ユーリは宿の扉をくぐる。これで今日は子供達から開放される、と思ったら、急に眠気が襲ってきた。
 エステルが使っている部屋の勝手は、何度か来ているから分かっている。最初はベッドが二つある部屋を使っていたが、今は部屋を変えて、ベッドは一つだけの部屋。暖かい日差しが窓から差し込むが、昼寝するには少しきついのでカーテンを閉めることにした。剣をベッド脇の床に置くと、もそもそベッドにもぐりこむ。エステルも決して背が低い訳ではないが、それでも自分よりは低いので、このベッドは少々狭い。けれど、貸して貰う身分で文句は言えない。枕の位置を調節して、丁度うとうとしかけた頃。


(………………いや、待てよ。これは知らない誰かに見られたら……)


 ふと頭を過ぎった言葉に、眠気が吹っ飛んだ。がばりと掛布を跳ね除け、少し青ざめた表情でユーリは考える。
 そう、自分は決して変なことはしていない。ギルドの仕事も今日は休みで、ちょっと遊びに来て、何だか休みたくなったからエステルのべッドを借りて眠ることにした。ほら見ろ、何もおかしくない。おかしくない、けど。
 これは何も知らない人に見られたら、何かおかしな誤解を招かないか?

「…………あら」

 突如女の声。びくりと肩を強張らせたユーリが声のした方へ顔を向けると、よく知った顔の女がいつの間にか部屋の入り口に立っていた。どうやら鍵を閉めるのを忘れていたらしい。女は暫く無表情でこちらを見ていたが、やがて赤い瞳を細めてにっこり笑い、何も言わずに扉を閉めて部屋を後にした。


「こら待てジュディそのまま何事もなかったかのように出てくな――!」


 怒鳴りながらユーリは急いでベッドから降り、全速力で廊下を駆け、まさに階段を降りようとしていたクリティア族の女の肩を掴んだ。女は涼しい顔をしたまま、けれどこちらには決して顔を向けず、さらりと言った。


「ごめんなさいね。私、何も見なかったから安心してちょうだい。エステルを探してただけだから」
「おい! 何も見てねえっつんなら何謝ってんだよ! 誤解だ! お前思ってるの誤解だから!」
「そんなに言わなくても良いじゃない。見なかったって言ってるでしょう?」
「だからそれが誤解っつってんだろ――!?」


 彼女がわざとこういうことを言っているのはユーリも分かっているが、だからといって下手に放っておくとそれはそれで何が起きるか分からない。結局ユーリはジュディスをエステルの部屋まで連れて行き、全く自分にやましい思いがなかったことを五分ほどあらゆる言葉を駆使して説明したのだった。