大人だもん、良いでしょ?
そんな昨日の夜のこと
「レイヴン、教えて欲しいことがあります」
物凄く、真剣な顔をしていた。レイヴンは目の前で自分に詰め寄る少女を凝視して、その真剣さに少し身を引きながら、次の言葉を待った、が、思い切りずっこけることになった。
「大人のおもちゃ、って何です?」
「…………嬢ちゃん? えーと、熱でもある?」
「ありません。何なんでしょう、確かにおもちゃは子供のものとは限りませんよね。では大人も楽しめるおもちゃって何なんです? おもちゃですよね? あえて大人と限定したからには何か」
「わー! わーわーわー、嬢ちゃん年頃の女の子がそんな言葉連呼しちゃダメッ!」
やや早口にまくしたてるエステルの口を塞ぎ、レイヴンはひとつ深呼吸、
「……さて……一体どういう経緯でそんなことおっさんに訊くのかしら」
「えっと、クリスマスプレゼントをみんなにあげようと思ったんです。それでユーリに何が欲しいかって訊いたんですけど……」
『クリスマスプレゼントぉ?』
『はい、ユーリはどんなプレゼントが良いですか?』
『オレなあ…………、そうだな。大人も楽しめるおもちゃ、とかどうだ?』
『大人も……楽しめるおもちゃ、です?』
『そう。そりゃあもう楽しいおもちゃだぞー』
『そんなこと言われても、幅が広すぎです。おもちゃ……具体的にどんなおもちゃが良いんです?』
『おっさんに訊いてみろ、目ェ輝かせて教えてくれるぜ』
「……という訳で、レイヴンに訊いてみようと思ったんです」
ちょっと青年、ここはボケるべきなの? それとも正直に教えるべきなの?
ユーリの思惑が全く理解出来ず、レイヴンは軽く眩暈を覚えた。はぐらかそうにもエステルの瞳は真剣すぎた。こんな純粋な少女に何て悪戯をするのだ、あの青年は。
「……あら、二人とも。そろそろ夕食の時間よ」
どうやら部屋の扉が少し開いていたらしい。身体を滑らせて部屋に入って来たジュディスを見て、エステルはぽんと手を叩いた。
「あ、ジュディス! あの、わたしジュディスに訊きたいことが」
「きゃーっ、嬢ちゃんダメーッ!」
「もごごっ」
レイヴンが慌ててエステルの口を背後から塞いだ。ここでジュディスに質問なんぞされてたまるか。変な誤解を招いて吹っ飛ばされるに違いない。ジュディスは赤い瞳をきょとりとさせて二人をやり取りを見つめる。
「まあ。二人で内緒話かしら」
「ま、まあね! 俺と嬢ちゃんの秘密の小部屋なのよ!」
「……やだ、私風邪でもひいたのかしら。何だか寒気がしてきたわ」
我ながら酷い言い訳をしたものである。エステルの口から手を離したレイヴンは、ひらりと二人の間をすり抜けて部屋の扉へと向かった。
「それで? エステル、私に訊きたいことって何かしら」
「はい! ジュディスは大人も楽しめるおもちゃが何か、知ってます?」
…………ああ、俺の努力、台無し。
嘆く間もなく後ろ首をがっしと掴まれたので、レイヴンは泣きたくなった。
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