「リタ、わたしの欲しいものって、何でしょうか……」
「……何言ってんのあんた、いきなり」


 ベッドの上で本を読んでいたリタは、呆れたように目を細めた。唐突過ぎて意味不明。


「ユーリの欲しいものが何かを探しているのですが、レイヴンと話していたら、わたしの欲しいものが何かも気になってしまいまして……あ、リタの欲しいものって、何です?」
「ちょっとエステル、話飛びすぎ……いいけど」


 頭の中で彼女の話を整理して、とりあえず自分の欲しいものを答えれば良いのか、と結論付ける。


「そうねー……あたしが今欲しいもの……特に今はないかしらね」
「え、な、ないんです?」
「だって、パッと言われてパッと思い付くものがないんだもの。……にしても、あいつの好きそうなものねえ……なんか甘いものあげれば喜ぶんじゃないの?」
「そ、それはもう何度も思ったんですけど……」


 あれで甘いものが好きな男だ。無言でプリンを食べる黒ずくめの青年というのは、なかなかに奇妙な光景であるが、もう慣れた。甘いものは確かに喜ぶだろうが、無難すぎて嫌だった。そんなものいつだってあげられる。一年に一度しかない誕生日なのだから、もっと凝ったものを――日も暮れたこんな時間から凝ったものなんて範囲が限られているが。


「やっぱり本人に訊くのが一番手っ取り早いと思うけど」
「でも、わたしやリタみたいに、分からないとか、今は特にないとか言われてしまったら、どうすれば良いんです?」
「ま、諦めるしかないわね」
「そんなあっ」


 いや、そんな悲しそうな声で言われたって、あたしはどうしようもないんだけど。
 すっかり弱ってしまったリタが唸っていると、部屋にゆっくりと犬が入ってきた。


「……あ、ラピード……そうだ! ラピードはどう思います? ユーリの欲しいものとか、喜ぶことって、一体何でしょうか」


 煙管を揺らしたラピードは、ぴたりと足を止める。ラピードはユーリの相棒だ。彼が一番ユーリに近いのかも知れない。ラピードの言葉は理解出来ないけれど、何となく雰囲気で掴めるかも――と、行き当たりばったりにエステルはラピードの前に膝をついた。


「下町で暮らしていた時、誕生日がくるとユーリは何を貰っていたんでしょう。フレンだったら、一体何をあげるんでしょうね」
「あの几帳面男のことだから、ハンカチとかじゃないの?」
「そうかも知れませんけど、実用的で良いじゃないですか」
「ユーリが使うかは別だけどね」


 ハンカチを使うユーリなんて想像出来なくて、リタは思わず眉を寄せた。と、ラピードがくるりと背を向け、部屋を出て行ってしまった。その尻尾は、着いてこい、と言っているようにひらひらと動いていた。


「……ラピード……?」
「行ってみれば? 何か思いつくかも知れないし」
「そう、ですね……はい、行ってみます!」


 意気込んで駈け出したエステルを見送って、リタは呆れてため息をついた。


「……難しく考えるほどでもないと思うんだけどなあ」


 だってあいつ、エステルのくれるものなら何でも喜びそうだし。からかいでも。