TOVブログのボツスキット:ユーリの誕生日の話です。













 その謎は、誰にもとけない。








誕生日探偵








 夕飯にはケーキが出てきた。みんなで手分けして作ったらそれぞれの個性が出てしまって、余り見た目に統一感のないケーキだった。
 甘いのが好きな人だから少し甘めのケーキにしましょう、と言ってジュディスは生クリームに蜂蜜を加えて、甘いものが苦手なレイヴンは、せめて生地は控えめにしてちょうだいよ、と砂糖を少なめにした。やっぱりここはボクの出番だよね、とカロルが張り切ってデコレーション。蝋燭がまっすぐじゃなきゃいけないなんておかしいわよね、とリタが変なところに蝋燭を刺し、じゃあ歳の数だけしか蝋燭を刺しちゃいけないというのもおかしいですよね、とエステルがどんどん蝋燭を増やす。


「……の割には、旨いよな」


 そんなこんなで出来上がった、個性的なんて言葉では足りないくらい個性的なケーキを一口食べたユーリは、心底意外そうにそんな感想を述べた。
 三十本ほどの蝋燭についた火を吹き消して、六等分。ラピードはケーキを食べられないから、サラダをどっさり盛った皿を出す。やりたい放題やったケーキではあったが、不思議と味は申し分ない。


「みんなで頑張って作ったんですよ。喜んで貰えて何よりです」
「そうそう! ユーリの二十二歳の誕生日記念だからね!」


 エステルが嬉しそうに笑うと、カロルもフォークを振って言う。


「もう誕生日を喜ぶような年頃でもないけどな、オレ」
「気を付けなさいよ大将。歳を取るのなんてあっという間だからねえ」
「……おっさんのような大人にはならないように気をつけるよ」
「え!? ちょ、それどういう意味よ!?」


 がたりとレイヴンが立ち上がると、馬鹿っぽい、とリタがため息をついてケーキを口に運ぶ。相変わらずのパーティにジュディスがにこやかに微笑む。
 いつもの食事に、ちょっぴり豪華なケーキ。その日の夜は、少しだけ豪華でいつもより盛り上がった夕食だった。




 食事の後の後片付けをしていると、ジュディスがエステルに小声で問うた。


「エステル。浮かない顔してるわね」
「へ?」
「他にどんなプレゼントをあげたら良いか、悩んでいるんでしょ?」


 この女は本当に聡い。エステルは一気に顔を赤らめると、ごまかすように流し台を向いて食器を洗い始めた。


「そ、そんなこと、ないですっ」
「あら、私の耳、おかしくなったのかしら。何をあげようか困ってる、って聞こえて仕方がないのだけど」
「…………ジュディス、意地悪です……でも、ほんとです。ユーリにはいっぱいお世話になっていますから、ケーキの他にも何かプレゼントしたいんですけど、何が良いのか分からなくって」


 布巾を持ったジュディスは、エステルの横顔を見つめ、不思議そうに眉を寄せた。


「本人に直接訊けば良いんじゃないの?」
「そんなの、は、恥ずかしくて出来ませんっ」
「恥ずかしい……? どうして? 欲しいものをあげるのが一番だと思うのに」
「それはそうなんですけど、でも面と向かって訊くのは気が引けて……」


 難しいのね、とジュディスは首を傾げて洗った食器を拭き始める。


「……そうね。それじゃあ、みんなに訊いてみたらどうかしら」
「みんなに、ですか?」
「ええ。ユーリの欲しいものは何だと思うかって。それも恥ずかしいなら、貴方の欲しいものは?、って訊いてみたらどう?」


 欲しいもの。エステルはその言葉を復唱して、ひとつ頷いた。


「……はい、そうしてみます!」
「そうと決まったら訊いてらっしゃい。後片付けは私がするから。早くしないと、今日が終わってしまうわよ」
「はい! ありがとうございます、ジュディス!」


 厨房を出ようとして、そこでエステルは足を止めて振り向いた。


「ところで、ジュディスの欲しいものって、何です?」
「私? ……そうねえ……殴っても殴っても起き上がってくる、とっても頑丈な敵とかかしら?」


 さっそく訊く相手を間違えたかも、とエステルはこっそり後悔した。