ED後捏造です。













 その手で、夜空に浮かせて。








ハーベストワルツ








「ジュディス、あの、やっぱりわたし、む、……無理です」
「何言ってるの、似合ってるわよ」
「でもこういうのは多分、ジュディスが着た方が綺麗だと思います!」
「駄目よ。動きにくいもの」
「……そ、ういう、問題なんです……?」






 夜空に大きな音を立てて花火が舞い上がる。その音に負けじと、ハルルの町では人々が騒ぐ。次に舞い上がった花火はどこかで見たような模様で――


「……ラピード、か……?」


 犬の横顔のような模様が描かれた花火に、ユーリは眉を寄せて苦笑いした。その隣で、ラピードが耳を動かして一声吠えた。それなりに満足しているような吠え方だ。
 面白い花火色々作ったんだ、とカロルが得意げに言っていたから、何の花火かと思ったら。手先が器用だというのは充分すぎるほど分かっていたが、花火まで作ってしまうとは。
『普通に暮らせる日常』がやってきてから、もう半年が過ぎた。魔導器を失った生活にはまだまだ慣れていないが、それでも人々は新しい生活に段々と馴染んできていた。結界を失った町をどう守るのか、新たな魔導器はどうしたら作れるか――今までの生活を捨てざるを得なくなった世界は、少しずつ殻を破り新たな道を歩み始めていた。
 そしてハルルでは、なぜか祭りが開かれていた。
 理由は分からないでもない。枯れていた木に花が咲いたのはもう随分と前のことだったが、それに喜ぶばかりで木を元に戻してくれた旅人達への祝福を忘れていた、と町の人々が言い出したからだ。偶然皆が集まってハルルへ足を運んだら、丁度良い、と町の人々は彼らをがっしと掴み、町に半ば軟禁した。
 夜がやって来て祭りが始まると、町の人々は自由に祭りを楽しんだ。カロルは自分で作った沢山の花火を打ち上げるのに奮闘し、レイヴンは僅かに頬を赤らめながら酒を飲んで、リタは珍しく笑いながら人々と踊っていた。ユーリはラピードと、大騒ぎから少し離れたところで祭りを見守る。


「しっかし……あいつら、何やってんだろな」


 空が赤くなってきた頃、エステルとジュディスは、宿屋の一室にこもり、それから今までずっと姿を見せていない。入ったらふっ飛ばしちゃうから、とジュディスににっこり微笑まれたので、誰も部屋の様子は分からない。


「ラピード、どう思う? ……って、分かんねえか」


 それはそうだろう、とラピードが鳴く。紙の取り皿を空にしてしまったので、料理を取りに行こうと立ち上がったユーリは、視界の隅でジュディスが歩いてくるのを見付けた。


「お待たせ」
「……お前ら、ずっと部屋で何やってたんだよ」
「あら。おめかしよ」


 ずっとジュディスの後ろに隠れていた桃色の頭が、彼女の肩からひょこりと少しだけ現れた。


「エステル。いつまで隠れているの? 折角可愛く仕立て上げたのに」
「あ、あの、でも、わたし、やっぱり」
「そういう服、着慣れてるんじゃないの? ほら」


 ジュディスがその背をとんと押して前に促す。つんのめるように前に出たエステルは、慌ててバランスを保つと、恐る恐るという風にユーリを見上げた。細い身体を包むのは、白いドレス。頭にはあのヴェールが飾られていた。余りに驚いたので取り皿を落としたらラピードの頭に落ちて、少し怒ったように小さく吠えた。