汚すことは、誰にも出来ない。








春草の王冠








 聞いたことのない歌だったが、まるで最初から知っていたように心地よく脳内を撫でていった。日に当てた毛布に頬を埋めたような心地よさだ。ユーリは思わず手を止めて、隣に座っている少女を見上げた。


「……何の歌だ? それ」
「わたしが小さい頃に覚えた歌です。誰から教えて貰ったかは覚えていないんですけど」
「へえ」


 ユーリは頬を緩めると、また手元に集中する。


「……なーんか、二人の世界よ、あそこ」
「良いじゃない、若い証拠よ」
「ジュディス……ユーリよりも年下だよね?」
「あんた、女に向かってそういう発言するもんじゃないわよ。ガキね」
「とか何とか言いつつも、嬢ちゃんが大将と仲良しこよしなのが悔しい魔導少女なのであった、と……」
「うっさいじじい!」
「じじい!? じじいって言ったよ今この子!?」
「良いじゃない。愛情の裏返しよ? それ」
「それ絶対違うよジュディスちゃん!」
「あーもー、良いから頑張って四つ葉のクローバー捜してよ!」


 誰も近付けないような雰囲気の二人を見て、四人がこそこそと話す。が、結局は大声で言い争うことになったので、そこから少し離れたところに座っていたラピードは、呆れたようにか細く鳴いた。
 四つ葉のクローバーが欲しいの。
 休憩に立ち寄った町で、その町に住んでいた少女がそんなことを言っていた。今日一日自由時間なのだから、とエステルは少女の願いを叶えようと、町のはずれにある草原に出かけた。それを偶然見かけたユーリとラピードも、どうせやることないし、と協力することにした。と思ったら、カロルが来て、リタが来て、ジュディスが来て、レイヴンも来て、結局全員で四つ葉のクローバー捜しである。


「……はあ。あたし達、こんなことしてて良いの?」


 緑と白とピンクで埋め尽くされた草原はのどかすぎて、戦いだらけの日常からはかけ離れている。リタは目を凝らして葉を見ながら、そんな風に溜め息をついた。


「たまにはのんびりすることも必要よ、リタっち。四つ葉捜しはのんびりするには根気作業だけどねえ」
「良いじゃない、夢があって。可愛いわ」


 面倒そうに肩を竦めたレイヴンを横目で見やり、ジュディスが目を細めて微笑む。カロルは草原に寝そべってクローバーの葉を指先でかきわける。


「うん。どんな依頼でも、その人にとっては大事なものなんだよ。依頼にはその人に込められた願いや思いが詰まってる」
「はい。素敵なことです。頑張って捜しましょう。みんなで捜せば、きっと見つかります」


 花のようにエステルは笑う。暖かく吹く風に、桃色の髪が揺らめいた。


「ところでよ。四つ葉の確立って、どんくらいなんだ」
「以前本で読みましたが……『四つ葉と三つ葉の割合は、およそ一対一万』です」
「……聞くんじゃなかった」
「でも、これだけ広いんですもの。きっとありますよ」


 ユーリは腹這いに草原に寝そべり、頬づえをつきながら四つ葉を捜す。白い花が緑色の中で踊る。