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「はあ? 闇取引ぃ?」
 翌日、五十嵐家。
 結局三人は学校を休んで路樹の家に集まり(三人が学校を休むなんてのは毎度のことであった)、偶然休みだった基彦に全てを話した。
「何かの聴き間違いじゃねえのか? 例えば授業料とかさ」
「授業料で三千万円!? 中学校は義務教育だよ?」
 リビングのテーブルにはこれでもかと言う程菓子が並び、四つのグラスにはオレンジジュースやらコーラやら、冷蔵庫にあるだけのペットボトルの清涼飲料水を飲みたい時に注ぎ足す。まるで子供達の宴会会場のような光景だが、話す内容は至って真面目である。が、部屋に持ってきた水槽の中には仙人が居るので(仙人一人で玄関の番は寂しいだろうから、今日ぐらいは持ってきてやろうという話らしい)、何だか妙な会議室である。
「ほら、給食費生徒何人分、とかだったりするかも」
「それなら尚更追い出されるのはおかしいな」
「雷筌……?」
 先程からずっと黙り込んでいた雷筌がやっと口を開いた。
「授業料や給食費の話だったら、別に俺達にだって関係のあることだ。聴かれて不味いような話とは思えない。わざわざカーテンで気付かれないようにする、とかもな」
「……そういやそうだな。自分達のこと気付かれないようにしてるみたいだ」
 留亜がクッキーを口に放り込む。
「どーも、あれだな。引っかかる。基彦、やっぱ聴き間違いで処理出来ねえよ」
 学校を平気でサボる癖して妙に正義感が強い三人である。基彦は困ったように額に手をやって盛大にため息をつくと、
「百歩譲って、それが闇取引とか賄賂とか、そんなだとしても、だ」
「おいおいっやーっぱ信じてないじゃん! にーちゃんあたし達のことからかってっ」
「み、路樹、どうどう!」
 椅子から立ち上がった路樹の腕を留亜が慌てて引っ張った。
「それから、その前に『闇取引』ってのは今時ダサい。闇取引だの黒服の男だの裏社会だの、そういうのは漫画とかの話であって、現実世界じゃヤーさんだって普通の格好してたりするぞ」
「ヤーさんと闇取引は別物じゃん」
「だからって首突っ込んで解決させようとかするんじゃない。相手が銃だの何だの物騒なもの持ってる可能性もあるんだからな」
「……ま、そりゃそうだ」
 雷筌がごもっとも、と頷く。
「そんな奴らの何を暴くっていうんだ。『全部まるっとお見通しだー』、とかっていかないぞ。絶対危険だし、殺されるっつーの。現実離れした話だな」
「違う違う基彦、『全部全てスリットごりっとまるっと』……」
「うっさいっ!」
 ごっ、と路樹の拳が留亜の頭に炸裂した。
「そりゃまあ、あたしだって死ぬ気でどうにかしようとは思ってないけどさ、なんて言うか、これでもし警察とかにばれたら嫌じゃん」
「は? お前、警察に突き出さなくてどうするんだよ。もう悪ささせない為にどうにかしようってんだろ?」
「まっさか」
 ぷうっと路樹はフーセンガムを膨らませ、ぱちんと破裂させた。それを手で取って再び口に押し込んでから、
「あたし達内申良くないし、此処で『闇取引』とかニュースで流されたら更に受験に不利になっちゃう。学力で行こうにも、多少の内申が必要な訳よ」
「そうだな。そりゃ教師が何かしてたら、イメージ悪くなるか」
「だから警察には押し込まない。あたし達の手で暴いて、クレープでも奢らせてついでに証拠写真かなんかを取って終わり」
「あ、オレ子供の頃買ったポラロイド持ってる」
「おおっ雷筌やるじゃん!」
 もう止められない。
「……お前等、俺に相談した意味、あったか?」
 三人は顔を見合わせる。
「あはは、なかったみたーい」
 さらっと妹は言い放った。
 全く世話の焼ける子供達であった。