己のセンス一生分、この瞬間に使うくらいの勢いで。








輝くものは、星さえも








 かち、かち、かち、かち。
 左手の人差し指が動く度に鳴る軽い音は、画面を次々と変えていく。黒い瞳を細めた青年は、やがて大きくため息をつくと椅子の背もたれにぐうっと寄りかかり、上半身を反らした。


「……難しいもんだなあ、宝石っつーのは」


 彼女に似合う色は何だろう。そこから始めたは良いが、宝石というのは自分が思う以上に種類があって、更に意味やら硬度やらが関係してくるし、勿論価格も様々。
 三歳年下の彼女は現在高校二年生。婚約指輪の一つでも贈りたいと思ってはみたものの、思っていたよりも難しい作業だ。


(っていうか)


 それ以前にあいつ指輪とかすんのか。ていうか校則で良いのか指輪。お嬢様学校だろ。あいつの好きな色とか宝石って何だ。
 普段考えないことをじっくり考えると、頭が痛くなってくる。普段のように、考えるよりとりあえずやってみる、といきたいところではあるのだが、行きつく先は婚約問題。『とりあえず』で済ませるようなことでもないが、ここまで面倒なことになると、とりあえずやってみた方が考えるより良い結果が出るかも、と思ってしまう。


「ユーリ、入りますよ」


 と、ノックの音が背後から響いた。ユーリは物凄い勢いで伸びをやめて、伸ばした左手でばんとノートパソコンを閉じた。入ってきたエステルは、コーヒーの入ったカップが乗ったトレイを持ったまま、きょとりと目を丸くした。


「……お取り込み中でした?」
「や、平気平気」


 ひらひら手を振ってごまかすと、エステルは不思議そうな顔をしながらもカップを渡す。空になったトレイはベッドの脇に立てかけて、制服のスカートに皺がつかないよう気にしながら少女はベッドに腰をおろした。


「なーエステル」
「はい」
「お前、色って何色が好き?」
「……何です、いきなり」


 眉を寄せられた。まあ、当然の反応だろう。
 だって、悟られたくない。
 似合う指輪は何だろうとか、似合う宝石は何だろうとか。
 色々考えていることを知られたくはない。


「……やっぱりピンクかねえ」
「だから、何がですか」
「何でもねえよ。こっちの話」


 コーヒーはいつも同じ、エステルの淹れてくれる甘い味。









 ユーリは多少ええかっこしいが良いな、という希望です。