手がかかっても、愛しいもの。








ラブリイ・ハニイ








 トレイに紅茶の入ったポットと、カップを二つ。部屋に戻ると、ベッドの上で上半身を起こしていた妻は、滑らかな肩に自分のシャツを羽織り、本を読んでいた。どちらも床に転がっていたものだった。


「何だ、もう元気になったか?」
「……元気になったか、じゃないですよ。歩けそうにないです」


 それでも身体を起こせるようにはなったらしい。ユーリは喉で笑うと机の上にトレイを置き、ポットを傾け暖かい紅茶をカップに注ぐ。エステルは本を静かに閉じると身体の脇に置いた。


「あの、ユーリ……何でそんなに、平気なんです?」
「平気?」
「はい。だって……わたし……その……全然、動けない、のに」


 言いつつもみるみるうちに頬は赤くなり、身体は縮こまり、声はぼそぼそ小さくなっていった。ユーリはポットをトレイの上に戻し、あー、とわざとらしく返す。


「あんなに気持ち良さそうにしてたもんなあ。そりゃ動けないだろ」
「誰のせいです!」
「オレかも知んないけど、気持ち良くて動けなくなってんのはエステルだろ?」
「………………そういうこと、言わないでください」
「誰のせい、って訊かれたから答えただけだよ。……ああ、分かった分かった。拗ねんなって」


 シャツの前を手で掴み、ぷいと顔を背けて黙ってしまった彼女を見て、ユーリは両手にカップを持ってベッドに座った。先程まで全身力が抜けてぐったりしてしまっていたから、ちょっとやりすぎたかな、と反省はした。が、紅茶を淹れている間に一応身体は起こせる程度に回復したようなので、やりすぎだけどこれ以上も可能だな、ということを覚えた。彼女への乱暴で身勝手な愛も、日々勉強ですから。


「今日は一日ゆっくりしてろって。オレも仕事休みだし」
「でも、こんなに良い天気なのに」
「洗濯か? 今、回してるぞ。後で干しとく」
「このベッドだって、干したいです」
「また今度晴れた日に、な。今日のお前の居場所はここ」
「……お肉が安いんです」
「分かった。ついでに夕飯も買ってくる」


 渡されたカップに口を付け、こくりと飲む。暖かい紅茶は心地良い気だるさに包まれた身体を巡り、力の入らない足まで温めるよう。


「わたしのお仕事、全部取られちゃいました」
「悔しかったら動いてみれば?」
「…………もうちょっと経ったら動けますよ」
「心配すんな。その前にまた動けなくさせてやっから」


 あの、そういうの、どうかと思うんですが。


「今日は奥さん業はお休み。な?」


 内緒話をするように唇に人差し指をやって笑う彼は、その時ふと幼さをその顔に宿すのだ。









 代わりにユーリが主婦ならぬ主夫になりました、という話です。
 何でも出来るユーリほんとに婿に欲しい。