*インメル学園パラレルです。ご注意下さい。*




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 どうしても抜けられない用事があってね、貴方に代わりを頼みたいの。








滑らかな霧の味








 ……そんな要望を軽く引き受けてしまったは良いのだが、それを叶える日になって、メルセデスは少なからず後悔していた。


「…………。重たい……」


 両手に持った買い物袋を恨めしげに見下ろしても、重さはちっとも変わらない。それどころか、気分的に重くなった。
 双子の兄妹であるイングヴェイとベルベットは、二人で暮らしている。家事の殆どをベルベットが引き受けているのだが、そのベルベットはこの日用事があった。そこで彼女は助っ人としてメルセデスに自分の役目を頼んだのである。すなわち、本日の夕食作り。時々この兄妹のところへ夕食を食べに行くメルセデスは、その恩もあることだし、すぐに引き受けた。
 どうせやるなら豪華なものが良いわよね、と意気込んで買い物に行ったは良かったが、あれこれ目移りしてしまって気付けば大荷物だ。


「……よくよく考えてみれば、三人分なのよね」


 幾ら豪華と言ったって、食べきれないほど作ってはどうしようもない。冷凍出来るものは冷凍してしまって、気が付いた時に使って貰おうかしら。
 考えながら歩いていたら、前方に見知った後ろ姿を発見した。


「イングヴェイ! イングヴェイでしょ、ちょっとこっちに来てよ!」


 家路を辿っていたのだろう彼は、大声に振り向いたが、自分のことを見て目を細めたかと思うと、何も見なかったかのようにくるりと前を向いて歩き出した。


「どっ、どういうことよその反応! 重たいの、お願い手伝って!」


 慌ててもう一度言ったら、再び振り向いたイングヴェイは嫌そうな顔をしながらも引き返し、片方手に取った。


「……何でこんなに買ってんだよ。三人分だろ」
「色々見てたら美味しそうなのばっかりで。気付いたら買い過ぎてしまっていたの」
「しゃーねえなあ。作り置きしておくか」


 その言葉に、メルセデスは少し眉を寄せた。
 あれ、なんかイングヴェイ、料理する気満々?




「いいか。買いすぎた場合には、買ってすぐに冷凍だ。もしくは調理した後に小分けして冷凍。旨みを損なわないよう、すぐに、だ」
「解ってるわよそれくらい。じゃあ、どれを冷凍庫に入れたら良いかしら」
「そうだな……つかお前、何作ろうとしてたんだ」
「えーと、ハンバーグでしょ、付け合わせにエリンギ炒めるでしょ、それからご飯とお味噌汁は必要だし……」


 テーブルに買ってきたものを並べてあれこれ考えた結果、まずこれとこれとこれを冷凍して、これは明日食べて、これは今日これから使って、と、そんな作業から始まった。
 怠け者でぐうたらなイングヴェイのことだからきっと横からあれこれ文句つけてくるんだわ、とメルセデスは思っていたのだが、逆に自分よりてきぱきと分けている。少し見直したが、冷蔵庫への食品の入れ方があんまりにもぐちゃぐちゃだったので、すぐに撤回した。


「いつもベルベットと一緒に作ってるの?」
「いや、俺は食べるの専門。たまに手伝うくらい」
「……の割には手つきが慣れてるのね」
「そりゃお前よりは色々器用だからな俺っていてっ」


 スリッパ越しに思いっきり隣にあった足を踏んづけ、そこから動かないままで玉葱をみじん切り。隣に立っているイングヴェイは、ぷるぷるしながらサラダ用のレタスをちぎっていた。


「いいなあ、一緒にご飯って。羨ましい」
「……じゃあたまに泊まりに来りゃ良いだろ。ベルベットだったら喜んで自分の部屋貸すぞ」
「そ、そうなの?」
「でも多分寝不足になるな」


 どういうことでしょう、それは。


「あれもこれもって、ベルベットの着せ替え人形させられるぞ?」


 何だか想像出来てしまって、楽しそうだけど夜通し続きそうだよなあ、と、メルセデスはちょっとだけ複雑になった。楽しそう、は、楽しそう、なんだけど。  踏んづけたままの足をぐりぐりやりながら、どうしようかな、とみじん切りを続けていたら、五秒後に思い切り殴られた。





中途半端な終わり方になってしまった……
ベルベットはメルセデスに自分の着られないような服をあれこれ着せ替えしてそう。と思った結果の産物。