必要なのは紙とペンとインク、それから心意気。
 どんなに良い材料でも、心がなければどうしようもない。


「言い訳か?」
「本気よ」


 要らなくなった板の上に紙を置いて、ペンを走らせる。頬杖をついた蛙は、わざとらしく大きなため息をついた。


「ねえ蛙、お前、絵は上手?」
「こんな手でペンを持ったって、もとが良くてもまともに描けやしないさ」
「あらそう? お前は器用だから、一見出来なさそうなことでもさらりとしてしまいそうな気がするんだけど」
「……褒められていると思っておくよ」


 彼女は褒めているつもりなのだろうが、どうも良い気はしない。


「……出来たわ!」


 満足そうに笑って、妖精の女王が板から紙を外した。


「ねえ、見て! 良い出来だと思わない?」


 余り上質ではない荒い紙の上に、黒いインクのペンで描かれた――


「……………………何処の怪物だ? この端っこのはいてっ!」


 唸って半眼になり見つめていたら、頭を板で思い切り叩かれ、木の上から沼へと落とされた。


「何よ! 蛙の癖に! 折角蛙も描いたのにっ」
「それ俺か!? お前の目は腐ってんのか、どう考えてもそれはどっかの下手な絵本に出てくる奇妙な怪ぶふっ!!」


 今度は急降下気味に降りてきて、脇をすり抜けざまに足の先で蹴られた。再び沼に沈み、浮かぶ。


「怪物!? 今、また怪物って言おうとした!?」
「言おうにもお前のその蹴りで言えなかったんだけどな……」
「何よ酷い! 思ったって言わないのが礼儀ってものでしょ、もう、女心を解ってないんだから!」


 お前みたいなガキ女王に女心なんてあってたまるかよ、とイングヴェイは思ったが、言うと今度こそタスラが火を噴くので言わないようにした。


「もう。お前の本当の姿が見てみたいわ。そうしたら、蛙じゃなくてその姿を描くのに」
「見たいのか? だったらひと思いに……いや何か暴力的だなこの言い方は。まあいい、とにかく話は早い、さっさとチュッと」
「それに関しては話は別よ。さあ帰るわよ」


 遮られた。しかも真顔で。
 そんなこんなで、今日も木々の向こうに夕日が沈んでいく。








その瞳にはうつらない











かわいい感じの二人にしたのに何故かバイオレンス。メルセデスは絵が下手だと良いなっていう妄想。
イングヴェイは憎まれ口叩いちゃうような人だと思ってます。(いじめかよ)