*叙事詩ED後の捏造です。*








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 何かに護られていると気付いたのは、逢いたいと願った少女のことを思ってから数分もしない時だった。否、もしかしたらもう何年も経っていたのかも知れない。余りに心地良い空間に居たものだから、時間の感覚はさっぱり解らない。自分自身、解ろうともしていなかったのだ。
 その空間に何か変化が訪れたから、彼はやっと頭を働かせるようになった。
 ああ、コルネリウス、お前が俺を叩きのめしたんだったな。
 人ごとのように今までの記憶が頭に浮かぶ。そこから先の記憶はない。少し疲れたから休もうと思っていたのに、これだ。……誰かが自分を何処かへ運んでくれたのだろうか。
 一体どうなったのか。
 世界は、自分は、全て――


「何なの、その呆けた顔」


 くすくす、くすくす。
 高い細かな笑い声が聞こえた。
 驚いて身体を起こした。その行為で、自分が今まで仰向けに寝転がっていたことに気付いた。


「きゃあ!」


 隣で少女の叫び声。目をやったら、驚いて肩をあげてこちらを見つめている妖精が居た。


「もう、いきなり起きないで! 思い切り額をぶつけるところだった」
「……メルセデス、女王?」
「そうよ、私よ」


 喉が張り付いた。からからになって、痛いくらいで、しかしそれが心地良いと思う変な気分だった。頭のほうもすっかり干からびたように使い物にならなくなって、話すべき言葉はあった筈なのに全て綺麗に砂になって飛んだ。干からびるなら大事な部分だけは残しておいて欲しいのに、と、彼は自分でも馬鹿だと思うようなことをぼんやり考えた。その自分の思惑はきっと一欠片も知らないだろう、少女は口元に手をやって細かく笑った。


「変な顔」
「…………変、か?」
「ええ。迷子になった子供が泣く直前に見せる顔、って感じかしら」


 ああおかしい、と最後にもう一度笑ってから滲んだ涙を細い指先で拭った。


「なあ……俺、生きてるのか」
「さあ?」
「お前、生きてるのか?」
「……どうなのかしら?」


 なぞなぞのように曖昧な答えを微笑んだまま返してくる。普段だったら、真面目に答えろ、と一喝してやるところだが、何故か今はそんな気分ではなかった。
 こんな気分は久し振りだ。
 生きているとか死んでいるとか世界とか獣とか宝石とか生きる糧とか。
 頭の中にあった全てが吹き飛ぶのは恐ろしいけれど、彼女の存在は何があっても吹き飛ばされないのだろう。


 ふわり、と。
 目の前を見覚えのある光がちらついた。


「――フォゾン?」


 自分と少女の周囲を回るように漂ったそれは、やがて自分の身体の中に吸い込まれていった。
 訳が解らず目を瞬かせたら、そのうちにもう一つフォゾンが浮き上がってきた。


「私は天に名前を帰したけど……私の魂は、何時までもこうして世界を支えるんだわ」


 少女の二つの小さな手がフォゾンを掬い上げた。胸に抱かれたフォゾンは微かに輝きを強くしてから、少女の中に溶ける。


「ねえ、手伝ってくれるかしら。前に蛙だった貴方が私を支えてくれたみたいに、世界を支える大樹になった私を手伝ってくれるかしら」


 本当に少しだけ、大人びたのかも知れないその表情。
 堂々とした態度に、彼は少々の空しさを覚え、そして大きな安心を覚えた。
 彼女はきっと自分の支えが無くとも世界を護るだろう。自分が居なくともやっていける。あの時言ったことは真実となった。それが空しくて、安心した。


「まあ――暇人だからな、俺は」


 退屈しのぎには申し分ないお守りだな。


 憎まれ口を叩いたら予想していたように頬を膨らまされたが、小さな手を強引に繋いだら少し不服そうな顔をし、そして微笑んだ。


「ええ。きっとずっと、退屈しないわよ」




 世界樹は、干からびない。
 二つの思いも、消え去らない。








枯れない木











あの後きっと二人は世界樹の中で幸せに世界を眺めているんだろうな、という捏造です。