*イングヴェイ生存パラレルです。*








+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +








 ぽつりぽつり降ってきた雨は一気に本降りになった。


「え、わっ、やだどうしよう……!」
「どうしようも何もねえよ、走れ! いや飛べ! お前は確実にその方が早い!」


 庭に綺麗な花が咲いた、と妖精達が教えてくれたので、早速メルセデスはそれを見に行こうと思った。けれど一人ではつまらないから、イングヴェイを連れて行くことにした。何で俺が、と最初はぼやいていたが、じゃあ良いわ一人で行くから、とつんとすました風に言って背を向けたら、拗ねたような顔で舌打ちされて着いてきた。嫌なら着いてこなければ良いのに、と言ってやったら、行くっつったら行くんだよ誘った奴が文句言うな、と怒られた。
 そうして花を見て、近くで採った果物を食べたりしながら散歩して帰ろうとしたら、こうなったのだ。


「でもっ……駄目よ、私、そんなこと出来ない!」
「はあ!? 何だそりゃ、妖精は雨が降ったら飛べないってのか!?」
「そうじゃないけどっ、駄目なの!」


 その割には、走っている自分の脇を低空飛行していた。飛んでんじゃねえかお前、とつっこみたかったが今はそうすべきタイミングではなさそうだ。何か訳があるのだろうが、どうにも理解不能である。近くに雨宿り出来そうな大きな木を発見して、じれったくなったイングヴェイはメルセデスの体を両腕で掴んで荷物のように小脇にやった。


「きゃああ!? 何っ、何するの!」
「じたばたすんなっ」


 その上に自分のマントを被せ、全速力で木の下に滑り込み、メルセデスを降ろした。


「……これは直ぐにはやみそうにないな」
「ちょっとイングヴェイ! いきなり何するのよ、びっくりするじゃない」
「そりゃこっちの台詞だ。飛べないとか言っといてしっかり飛んでたじゃねえか」


 すると彼女は当然のように頬を膨らませ、ぷいと顔を背けた。


「私だけ飛んでいってもイングヴェイは飛べないじゃない。イングヴェイ重いんだもの。持って帰れない」
「人を荷物扱いするな。ていうか重くて当たり前だ、お前が軽すぎるんだよチビ」
「チビって……仕方ないじゃない、妖精の成長速度は人間とは違うの! これでもイングヴェイよりずうっと長生きなんだから」
「そうかいババア」
「……撃ってやろうかしら」


 その言葉とは裏腹に、リブラムを木に立て掛けて腰を下ろした。


「だって……私が濡れないで帰ってイングヴェイはびしょ濡れなんて、嫌じゃない。だったら私もびしょ濡れになって帰るわ」
「……そんなもんか?」
「そんなものよ」


 彼女なりの不器用な心配りなのだろう。しかしこれはこれで足手纏いになったことは自覚していた。イングヴェイは呆れたようにため息をつくと、どかりと横に腰を下ろした。


「……ねえイングヴェイ。蛙の時、やっぱり雨の日は楽しかった?」
「蛙の姿から解放されたかった俺に向かって、楽しいとか言うか?」
「でも、蛙の姿で良かったこととかあったんじゃないの? 毒だって、必ずしも要らないものだった訳じゃなかったじゃないの」
「良かったこと、ねえ……まあ、確かに雨の日は人間の姿で居るよりか快適だったし、その点では良かったとは思うが、全般喜ばしいことでもなかったな」
「…………ね、私今メタモルフォーゼ持っているのだけど」
「ならねえぞ」
「再確認、してみたくない?」
「接吻して元に戻してくれるなら、喜んでなってやるさ」


 からかいの色で埋め尽くされた言葉に、だったら良いわ、とメルセデスは出していた瓶を鞄にしまった。


「……あったな、良かったこと」
「何が?」
「別に」


 お前と出逢って、口付けして貰ったことだよ。








レイン・レインボウ











雨が降って、自分は早く帰れるけどイングヴェイを置いていけないー、ってなるメルセデスが書きたかったのです。何となく。