*イングヴェイ生存パラレルです。*








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 少女が自分の名前を呼ぶ声が聞こえたが、無視してやった。何度も何度も自分の名前を呼ぶのだけれど、全部無視してやった。遠くなったり近くなったりしながら、がさがさっ、と上の方で音がした。


「イングヴェイ! 見付けたわ!」


 むくれたような声と顔。それも無視して立ち上がって何処かへ行こうとしたら、ふわりと頭上を飛び越えて前に着地された。


「どうしてそんなに私のこと避けるの?」
「良いだろ別に。お前は姑かよ」
「姑ですって? 何よそれ、何時私が子供を産んで、何時その子供が貴方と契りを交わしたっていうの?」


 何か論点が違うので、それも無視してやろうとしたら、羽飾りの付いた帽子をひょいと奪われた。


「あ……っ、お前!」


 腕を伸ばすが宙を自在に飛ぶ妖精の足は簡単にするりと抜けていく。花の髪飾りの上から帽子を被ったメルセデスは、どうかなあ、と少し整えるように何度か被り直していたが、やがて大きすぎると判断したのか、取って胸に抱いた。


「貴方がちゃんと話してくれるまで、これ返してあげない!」
「それが女王陛下のすることか? お遊びが過ぎるぞ」
「あら、その女王陛下のことを無視して避けて、挙げ句その理由さえ言わずに逃げようとする男に言われたくないわ」


 何かとても痛いところを突かれた気がした。


「あのなあ……、……っあー、悪かった、悪かったって。ほれ、返せ」
「全然心がこもってないわ!」
「悪うござんした」
「まず声が嫌みったらしいのよ」


 こめかみの辺りを指で押さえ、盛大にため息をついた。


「解った。取り敢えず降りてこい」
「……何よもう。避けた癖して今度は来いだなんて」
「謝ってやるっつってんだから来い馬鹿。…………や、悪かった、違うって、だから行くな!」


 頬を膨らませ帽子を抱いたまま羽を動かした少女を必死に呼び止め、ゆっくり降りてくる彼女の腕を掴んだ。驚いて少女が悲鳴を上げる。


「……悪かった、よ」


 低く唸るように謝る。ふてくされたような声と顔。けれどそれが彼の謝り方であることも少女はとうに知っていたから、満足そうに笑って、ぼすりと帽子を被せてやった。


「それで? どうして私のこと避けてたのよ」
「……言うか」
「もう一度帽子取っちゃおうかしら」
「やってみろよ。俺だってその頭の花引っこ抜いてやる」








くちばしあわせ











メルセデスが気になって気になって仕方ないイングヴェイは彼女の側に居ることもそわそわして出来なくなりました、という馬鹿話。