*インメル学園パラレルです。ご注意下さい。*




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 学校なんて、クソくらえだ。








エトピリカ








 風が吹く。夏の風だ。南から、強く吹く風。
 彼は紙を折って、飛行機を作る。配布された授業参観の手紙だ。こんなもの必要ない。どうせ来るとは思わない。
 折って、畳んで、を繰り返し、完成した紙飛行機を指でつまむ。寝転がったまま飛ばそうとして、


「イングヴェイ!」


 声がかかった。


「……もー。やっぱり屋上に居た」


 三つ編みおさげの少女が影を落としながら目の前に現れた。


「何だ。お前か」
「失礼なこと言わないでちょうだい。私ではいけない?」
「懲りないな、って意味だ。殆ど週に一回監視に来てるようなもんだぞお前」


 例えば昼休み終了五分前のチャイムと同時にとか、例えば掃除の合間にとか、隙を見付けては彼女はこうして屋上へやって来る。自分が此処に居て、さぼるのを知っているからだ。それでも自分は彼女の言い分をきかずに適当に屋上で寝そべって時間を潰す。


「屋上まで来るのって階段長いんだからね。汗かいちゃったじゃない」


 寝転がる自分の横にぺたんと腰を下ろし手で顔を仰ぐ少女を見て、だったら来んなよ、と心の中で毒づいた。


「あ、今『だったら来んな』って顔した」
「………………」


 お見通しだったらしい。当然だ。


「……いい風ね」


 南から吹く風は二人の間を吹き抜けていく。少年は行き場のなくなった紙飛行機を、寝そべったまま弄っていた。


「お前も飽きないな。どうしてそんなに俺のとこ来ては、ちゃんと授業出ろだのさぼるなだの言ってくるんだよ。鬱憤でも晴らしたいのか?」
「違うわよ。イングヴェイがちゃんと授業に出ないの知ってるんだもの。だから私はちゃんと授業に出るように催促して……るけど、効果はないの」
「効果がないって解ってるなら来るな」
「効果がなくても、来ちゃいけないってことじゃないでしょ」
「来るな、って言ってんだよ」
「貴方に逢う為に屋上に来たんじゃないわ、屋上に来たら偶然居たの! ……ってことにしたらどう?」
「有り得ない」


 物好きめ。
 腕を動かして、紙飛行機を飛ばした。寝転がったままでは何処に飛んでいったのか解らないが、隣の少女が歓声を上げたので巧く飛んだのだろう。


「もうすぐチャイム鳴るわよ」
「ほっとけ。鳴るんだったらもう一度汗かきながら教室戻れよ」
「戻らないわ」
「?」
「気分が悪いから保健室に行くって言ってきたの」


 それを聞いた途端にがばりと起き上がり、少女の顔色を窺った。が、何処を見ても健康そのもの。


「保健室だあ? ならとっとと行ってこいよ、こんな炎天下に居たら危ないだろ! 何だ、腹でも痛いのか? 食い過ぎか?」


 左頬を拳で殴られ屋上の上を転がった。保健室に行くべきは俺じゃないのか、と思いながら身体を起こしたら、少女がけたけた笑っていた。


「やだ、おかしい! 何をそんなに慌ててるの? 心配した? 私のこと、心配してくれたの?」
「…………ハッタリかましやがったかお前」


 自分が情けなくなり、恥ずかしくなった。


「ねえ、どうなの? 心配してくれたの?」
「してねえよアホ」
「じゃあどうしてそんなに慌てたの?」
「行く場所間違えてるからとうとう頭がおかしくなったかと思ったんだ!」
「とうとうって何よ!」


 もう良いわ、と彼女は自分の横にごろりと身体を転がした。


「……おい待て。何でそこでそうなるんだ」
「悪い?」
「さっさと授業出てこい。今なら間に合うぞ」
「保健室に行くって出てきたのよ」
「だったら保健室行け」
「此処に居るの」
「何で」
「風が気持ち良いからよ」


 夏に入って少し日焼けした少女の肌が、日差しに煌めく。


「あ、そ」


 何処も具合が悪くなくて良かった、と、そればかりに頭が回転して、憎まれ口さえ叩けなかった。





イングヴェイは三年でメルセデスは一年です。マンションに住んでてお隣さんで、イングヴェイは双子の妹ベルベットと住んでます。みたいな。
多分そのうちもっと書きます……自分が楽しいので。