パウダーチーズ
起きたらエプロンをかけたプーカが、おはようございます、といつものように言った。
「おはようミリス。……グウェンドリンは?」
それでもいつもと違うのは、自分を起こすのはグウェンドリンだからだ。ミリスは朝食の準備をしているからグウェンドリンが起こす。それでもオズワルドは自分で起きることが多いから、ミリスが起こしても何も問題ではないが、そうであってもグウェンドリンはそんな時でも傍らに居たのだ。
「グウェンドリン様は朝食の準備をなさっていますよ」
「……彼女が?」
「ええ。オズワルド様の為に何かをしたい、と仰ったのです」
何か?
……何か、だなんて。その存在自体が自分の生きる意味にも等しいのに、更にそんなことを思ってくれるなんて。にやけそうになるのを堪えていたが、
「嬉しいのでしたら、嬉しいと笑って仰って下さい」
と、笑いながら言われた。
「ミリス。出来たのだけれど、どうすれば……」
その時寝室にグウェンドリンがやってきた。真っ白いエプロンに身を包み、長い髪は二つの緩い三つ編みお下げ。ドレスのアームカバーは勿論外されていて、細く白い手が水に濡れていた。
「………………っ、…………!!」
その顔が呆然として、そして驚き、更に真っ赤になった。どうやらまだ自分は起きていないと思っていたらしい。とても慌てていて一体これから先どうすれば良いのか解らないような素振りだったので、取り敢えず笑って挨拶をすることにした。
「おはよう、グウェンドリン」
「……お、おはようございます、オズワルド様!」
焦りからか、何度も高速で頭を下げた。その度ふわふわと髪が揺れる。
「グウェンドリン様、落ち着いて下さい。出来上がったのでしたら、盛り付けを致しましょう」
「盛り付け……あ、ええ、そうね、そうよね!」
「ではオズワルド様、私達は最後の作業を致しますので」
そうして去っていった二人の背中が消えると、オズワルドは顔を手で覆って、そして息を吐き出した。
口が緩むのを止められない。
なんて愛しい朝だろう。
「オズワルド様、とても喜んでいらっしゃいましたよ」
「ええっ!? ミリス、言ってしまったの?」
「申し訳ありません。我慢が出来なくて。……本当に、嬉しそうでした」
「……でも……オズワルド様、美味しいって仰って下さるかしら」
「ええ、勿論でございます」
もしも美味しくないと言ったら、私が蹴ってやる。
まあ、どうせ彼はそんなこと絶対に言わないけれど。例え、例え彼の舌がおかしくて美味しく食べられなくたって。
何かやっぱりミリスさんは強いです。