鍵は、向こう側
どうして今まで気付かなかったのか。グウェンドリンは自分が恥ずかしくなった。
「……矢張り貴方は、とても優しいのですね」
大きくて豪奢なベッドにくるまっていると、自分が酷くちっぽけに思える。けれどすぐ隣にオズワルドが居てくれるから、ちっぽけでも寒くはないと感じるようになった。
「言っただろう。君は物じゃないと」
「ええ」
「だからおさえつけることもしたくなかっただけだ」
「解っております。照れていらっしゃるということくらい」
可愛いな、とグウェンドリンは思った。彼は、可愛い。こんな言葉はおかしいのかも知れないけれど、意外と照れ屋だと最近解ってきた。無口で無愛想で少し怖い印象が、今では照れ屋で少し素直じゃなくて可愛い、になってしまった。
まあ、最初の印象とは先入観や立場からのものであって、実際全く違ったのは当然なのだけれど。
彼はこの城の何処にも鍵をかけなかった。
自分と槍と古城を手に入れた黒い剣士は、小さな鳥を入れる籠に鍵を閉めず、しかも扉さえ開け放っていた。それに気付いたのは、彼を愛していることを自覚してからという、何とも遅いタイミングのことだった。
「貴方はお優しい。私のことを、物と扱わない。妻という道具であると、扱わないのです」
「当たり前だ。……俺には、愛する者も愛してくれる者も居なかったから」
「今は私が居ます」
「ああ」
「だから、オズワルド様も私のことを愛していて下さいね。でないと、哀しいです」
言ったら何故かぎゅうと抱き締められて、苦しいです、と告げたら、ああ済まない、と慌てて腕の力を緩められた。素肌を抱き締めてくれる腕は逞しく、思ったより細かった。
「宜しいのですよ。鍵をかけても」
「……どうして」
「私は貴方のものです。……いえ、『物』、ではなくて。この心も身体も全ては貴方の為にあるのですから」
「駄目だ」
もう一度引き寄せられ、頭の上で言われた。
「君は君で生きる道を選ぶんだ。出て行きたくなったらすぐに出て行ける。俺に愛想がつきたら、すぐに指環を置いて飛び立てる」
「そっくりお返し致します」
「俺はこの古城の主だろう? 主が飛び出していくのか?」
「その際は私が主になりますよ」
それはそれで、どうかと。
「そうであっても、」
これは『物』ではなく、
「君の主は、俺が良いな」
独占欲だ。
でもオズワルドは犬っぽいので、飼い主グウェンドリンに尻尾ふってるんだ。(という理想)